「ZEHって、結局どういう家のことなんですか?」
住宅用太陽光と蓄電池の営業をしていた6年間で、この質問を何度受けたか分かりません。
キャリアアドバイザーに転身してからも、住宅設備の営業職を考えている相談者から同じことを聞かれました。
はじめまして、キャリアライターの片桐修平です。
飲食店の店長から住宅エネルギーの訪問営業に移り、その後は営業職専門の人材紹介会社で5年間、転職の相談にのってきました。
この記事では、ZEHの定義と「省エネ・創エネ・蓄エネ」の違いを、現場で説明してきた言葉でほどいていきます。
あわせて、すでに建っている家でできることと、営業として誠実に提案するためのポイントもまとめました。
ZEHが気になっている住宅の持ち主にも、この業界の営業職を考えている人にも読んでもらえたらうれしいです。
目次
ZEHをひと言でいうと「1年間のエネルギー収支をゼロ以下にする家」
ZEHは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略で、「ゼッチ」と読みます。
家で使うエネルギーを減らし、使う分を太陽光などでつくって、1年間の収支をゼロ以下にする住宅のことです。
「光熱費ゼロの家」ではない
営業の現場でいちばん多かった誤解が「ZEHにすれば電気代がタダになる」というものでした。
ここでいうゼロは、お金ではなくエネルギーの量の話です。
冷暖房、給湯、換気、照明で使うエネルギーを「一次エネルギー」という共通の物差しに換算します。
それを1年間で見て、太陽光でつくった分が使った分以上になればZEHです。
夏の昼に売った電気と、冬の夜に買った電気を年間で差し引きするイメージが近いと思います。
夜や雨の日には電力会社から電気を買うので、電気代の請求がなくなるわけではありません。
断熱・省エネ・創エネの3つがそろってZEHになる
ZEHの条件は、次の3つです。
- 断熱性能を高めて、熱が逃げにくい家にする(断熱等性能等級5以上)
- 再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を、基準から20%以上減らす
- 太陽光などの再生可能エネルギーを加えて、100%以上減らす
これはZEH補助金を執行している環境共創イニシアチブ(SII)の2026年度パンフレットに載っている定義です。
地域や敷地の条件によっては、次のような区分もあります。
| 区分 | 再エネを加えた削減率 | 対象になる主なケース |
|---|---|---|
| 『ZEH』 | 100%以上 | 基本の形 |
| Nearly ZEH | 75%以上100%未満 | 寒冷地、日射の少ない地域、多雪地域 |
| ZEH Oriented | 再エネの導入は不要 | 都市部の狭い敷地の2階建て以上、多雪地域 |
「屋根が小さくて太陽光を載せきれない家はZEHになれないのか」と聞かれたら、この表を見せると話が早く進みます。
省エネ・創エネ・蓄エネを1つずつほどく
住宅設備の業界では、ZEHの話をするときに「省エネ・創エネ・蓄エネ」という言葉をよく使います。
ここで気をつけたいのが、ZEHの条件である「断熱・省エネ・創エネ」とは中身が少しずれていることです。
その違いも含めて、1つずつ見ていきます。
省エネは、まず給湯を見る
省エネと聞くと、エアコンや照明を思い浮かべる人が多いと思います。
ところが2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、給湯器を「家庭部門のエネルギー消費の約3割を占める」と書いています。
そこで出てくるのが、空気の熱でお湯を沸かすエコキュートです。
一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターのエコキュートの解説ページによると、投入したエネルギーの3倍の熱エネルギーを得られます(年間給湯効率が3の場合)。
同じページには、2001年の製品化から2025年3月末までに、国内の累計出荷台数が1,000万台を超えたとも書かれています。
私が営業をしていたころも、ガス給湯器や灯油ボイラーの交換時期は、省エネを具体的に話せるいちばんのタイミングでした。
創エネは「売る」から「使う」へ
創エネの中心は、屋根に載せる太陽光発電です。
第7次エネルギー基本計画は「2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されること」を目標に掲げています。
ここ数年で、太陽光の考え方は大きく変わりました。
住宅用太陽光の余った電気は、固定価格で買い取ってもらえる期間が10年と決まっています。
2019年以降、この期間を終える家が順番に出てきています。
いわゆる「卒FIT」です。
買取期間が終わると売電の単価が下がるため、つくった電気を自分の家で使う「自家消費」を考える家庭が増えました。
蓄エネは、今のZEHでは必須ではない
蓄エネは、昼につくった電気を蓄電池にためて、夜や停電のときに使う考え方です。
意外に思われるかもしれませんが、現行のZEHの定義では蓄電池は必須になっていません。
それでも蓄電池を選ぶ家庭は増えています。
SIIのネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2025の概要によれば、令和7年度に補助の交付決定を受けた戸建ZEHのうち、蓄電システムを追加した家の蓄電容量の平均は9.3kWhで過去最大でした。
SIIはその理由として、エネルギー価格の高騰と売電価格の下落を挙げています。
3つの役割を表にまとめると、次のようになります。
| 言葉 | 役割 | 主な設備 | 現行ZEHでの位置づけ |
|---|---|---|---|
| 省エネ | 使うエネルギーを減らす | エコキュート、IHクッキングヒーター、LED照明 | 必須(20%以上削減) |
| 創エネ | 使う分をつくる | 太陽光発電 | 必須(区分による例外あり) |
| 蓄エネ | つくった電気をためて使う | 家庭用蓄電池 | 任意 |
| 断熱 | 熱の出入りを抑える | 断熱材、高断熱窓 | 必須(等級5以上) |
省・創・蓄は設備の話で、断熱は家そのものの性能の話です。
この線引きを最初に伝えておくと、お客さまとの話がかみ合いやすくなります。
ZEHはこれから「当たり前」になっていく
国土交通省の省エネ基準引き上げの特設ページによると、2025年4月以降に着工する住宅には、省エネ基準への適合が義務づけられました。
この基準は、遅くとも2030年までにZEH水準の省エネ性能へ引き上げられる予定です。
普及も進んでいます。
先ほどのSIIの調査発表会2025では、2024年度の新築戸建住宅のZEH化率は30.5%、注文戸建住宅に限ると42.6%でした。
さらに、経済産業省と資源エネルギー庁は2025年9月に「GX ZEH」という新しい定義を公表しました。
2027年4月から適用され、主な変更点は次のとおりです。
- 断熱性能が等級5から等級6に上がる
- 再エネを除いた削減率が20%から35%に上がる
- 戸建ては、エネルギーを自動で制御する仕組み(高度エネルギーマネジメント)が必須になる
- 再エネを加えて75%以上削減する区分(GX ZEH+、GX ZEH、Nearly GX ZEH)では、蓄電池も必須になる
ネット上で「GX ZEHが義務化される」という書き方を見かけることがありますが、GX ZEHはあくまで定義の見直しです。
現行のZEHも、2028年3月までは新規で取得できます。
蓄エネが「任意」から「条件の一部」へ変わっていく流れは、営業職を目指す人なら押さえておきたいところです。
すでに建っている家は「ZEHに近づける」と考える
ZEHの解説記事の多くは、新築を前提にしています。
けれども、多くの人にとって身近なのは、いま住んでいる家をどうするかという悩みのほうです。
既存の家でZEHの認定を取るには、壁や床の断熱改修を含めた大がかりなリフォームが必要です。
そこで私は、既存の家では「ZEHに近づける」と考えるように話してきました。
断熱は窓から、設備は交換のタイミングで
環境省の特集記事では、住まいの熱の出入りは窓などの開口部が5〜7割を占めるといわれている、と紹介されています。
壁の断熱工事が難しくても、窓の改修なら取り組みやすいはずです。
省エネ・創エネ・蓄エネの設備は、既存の家にも後から付けられます。
2026年9月時点では、経済産業省の「給湯省エネ2026事業」で、エコキュートに1台あたり基本額7万円の補助が出ています。
ただし予算の上限に達すると受付が早めに終わるので、検討するなら公式サイトで最新の状況を確認してください。
太陽光がある家こそ、次の一手を考えやすい
すでに太陽光を載せている家は、創エネがそろっている状態です。
卒FITで売電単価が下がったあとは、昼の電気をどう使い切るかが検討のテーマになります。
エコキュートを昼間の太陽光で動かす運転モードや、蓄電池で夜に回す方法がその候補です。
この流れを事業の軸にしている会社の一つが、東京・勝どきに本社を置くエスコシステムズです。
同社は公式サイトで、ZEHの考え方をもとに「新築でも完工しているお宅でも導入できる方法」として省エネ・創エネ・蓄エネを提案していると説明しています。
公開されているお客さまの声には、卒FITで売電がもったいないと感じていた家庭が、エコキュートの太陽光連動モードを入れた事例もありました。
営業目線で見た「いい提案」と「危ない提案」
ここからは、営業職を考えている人にも読んでほしい話です。
太陽光パネルは外から見えるので、蓄電池などの訪問営業の対象になりやすい家でもあります。
国民生活センターの家庭用蓄電池の勧誘トラブルに関する注意喚起によると、家庭用蓄電池の相談件数は2019年度に1,000件を超え、2020年度は1,314件でした。
「〇年で元が取れる」と言い切る説明や、「安く契約できるのはあと2件」とせかす勧誘が事例として挙がっています。
同じ資料は、売電と自家消費のどちらが得かは、電気料金や蓄電池の価格、買取メニューによって異なると書いています。
つまり、どの家にも同じ答えを出す営業は、それだけで危ういということです。
私が現場で先輩に教わり、後輩にも伝えてきた「いい提案」の条件は次のとおりです。
- 検針票や発電のデータを見てから話す
- 本体価格だけでなく、ローンの総額や将来のメンテナンス費用まで伝える
- 相見積もりを嫌がらない
- 補助金を使うなら、申請の期限と手続きの担当をはっきりさせる
- その場で決めてもらおうとしない
エスコシステムズの営業は、アポイントを取る担当、話を聞く担当、契約を担当する担当の3つに分かれています。
話を聞く担当の役割は、太陽光を設置したときの費用や今の発電状況をヒアリングすることです。
いきなり商品を並べるのではなく、まず相手の家の事情を知るところから始める流れになっています。
同社の営業職には、未経験から入った人が約半数いると書かれています。
仕事の分け方や研修の流れ、勤務地についてはエスコシステムズの採用情報ページで確認できます。
ZEHの知識は、こうした仕事で信頼される営業になるための土台です。
定義をきちんと説明できる営業は、それだけでお客さまに安心してもらえます。
まとめ
ZEHは、断熱で熱を逃がさず、省エネで使う量を減らし、太陽光でつくった分で1年間のエネルギー収支をゼロ以下にする家です。
光熱費がゼロになる家という意味ではありません。
業界でよく使う省エネ・創エネ・蓄エネのうち、蓄エネは現行のZEHでは任意です。
ただ、2027年4月から適用されるGX ZEHでは蓄電池が条件に入る区分もあり、位置づけは変わりつつあります。
すでに建っている家なら、窓の断熱と設備の入れ替えで「ZEHに近づける」考え方が現実的です。
卒FITを迎えた太陽光の家は、次の一歩を考えやすい状態にあります。
営業職を目指す人に伝えたいのは、制度の知識そのものよりも、その家に合うかどうかを一緒に考える姿勢のほうです。
私自身、お客さまの電気の使い方を一緒に確認したことで、話がいちばん前に進んだ経験が何度もありました。
この記事が、ZEHを考える人と、この仕事に踏み出そうとしている人の両方の役に立てばうれしいです。
最終更新日 2026年9月24日 by teighj







